ひと部屋からはじめる断熱・耐震リフォーム

まずはひと部屋からリフォームを

全ての国民に“命を守る”ひと部屋を

医療技術が進歩し平均寿命が延びる一方で、「健康寿命」がそれ以上に伸びなければ、日常生活に制限のある期間が拡大します。結果的に生活の質が低下するだけでなく、家族が介護をする負担も大きくなります。
健康寿命を延ばすためには、生活習慣の改善などに加えて、ヒートショックや熱中症など気温の変化への対応として、住まいの環境を整えることが重要性です。
ZEH新築や一戸全面断熱改装ほどの費用をかけず部分的な改修で断熱性能が高いひと部屋を確保することで、気温の変化に伴う健康への影響を緩和することができ、健康寿命を延ばすことにつながります。

厚生労働省の「健康日本21」に「建築・住宅等分野の取り組みとの連携必要性」が明記

厚生労働省は21世紀における国民健康づくり運動『健康日本21』を推進しています。そこには、健康増進の取組を推進するためには、建築・住宅等の分野における取組と積極的に連携することが必要であることが盛り込まれています。これを受けて、健康日本21(第三次)推進のための説明資料では、「自然に健康になれる環境づくり」として、WHOの勧告「冬季室温18度以上」についても紹介しており、室温が血圧・睡眠等の健康状態に影響を与えることが報告されつつあるとしています。

住宅全体が望ましいがまずは「ひと部屋」

断熱工事は性能発揮および身体の健康の観点からも家全体に施すのが望ましく、耐震工事についても住宅強度の観点から全面耐震化が理想です。しかし、当面の費用負担の問題や工事期間の問題で全面改装に踏み切るハードルは高いのが実情です。そんな課題を解決できる手段としてまずは「ひと部屋からの断熱工事・耐震工事」なのではないでしょうか。生活の中で主に過ごすひと部屋を断熱・耐震することにより健康が保たれるとともに、地震の際には命を守るシェルターそしての役割を果たしてくれます。

『ひと部屋断熱』消費者のコスト負担は約2~3割

健康寿命を延ばすために必要なのは18℃以上を維持すること。そのために必要なひと部屋断熱リフォームを実現する改修コストは約80~100万円※工事内容により金額は変わります。補助の交付対象費用の約8割を限度として国や自治体から支援があります。

耐震リフォームの必要性

世界的に見ても地震の多い日本。阪神淡路大震災・東日本大震災・熊本地震・能登半島地震の経験、そして想定される首都圏直下型地震や南海トラフ地震。地震とは切っても切れない日本にも関わらず耐震補強されていない住宅がまだまだ多く、新築も減少する中では既存の住宅に対する耐震補強が重要になってきます。耐震補強によって地震による建物の被害を軽減し安全な居住環境を確保することが出来ます。

断熱・耐震で「命を守るひと部屋」に

災害に備えて住まいの耐震性を向上させることは重要です。もちろん住宅全体の耐震性向上が望ましいですが、費用の面などから緊急的・暫定的な措置として部分的に改修することも選択肢として考えられます。断熱により室温 18℃を維持して健康寿命を延ばすことに加えて、そのひと部屋を耐震化することで災害時のリスクを低減することが出来ます。断熱+耐震でより安心できる「命を守るひと部屋」が叶えられます。

支援制度の活用により『ひと部屋耐震』消費者のコスト負担を軽減

WHO(世界保健機関)も「住宅新築・改修時の断熱工事」を勧告

国内および海外のデータからも寒冷地域の冬季死亡増加率は低いことがわかります。寒冷な地域では冬季において健康を維持するための室温が保たれていることがこのような結果に表れています。
WHO(世界保健機関)は、室温18度以上保つことを強く勧告しています。世界では、最低室温規定のような住環境としての質の評価に“温度”を加える流れもあります。冬季の屋内温度差によるヒートショックを原因として健康を害し、介護の必要な状態になる高齢の方々が少なくありません。
既に高齢化社会に突入している日本では、要介護者は400万人を超え、介護費用(保険)も7兆円/年を超えているのが現状です。住宅内のヒートショック事故の原因を放置すれば、介護状態になってしまう“不幸なお年寄り”が激増するだけでなく、これを支えるための現役世代の社会的費用負担も膨大なものになってしまいます。
また健康への影響は 高齢者のヒートショックだけではなく、子供から成人まで「咳」「のどの痛み」といった症状や様々なアレルギーの発症が、断熱化された住宅では減少する可能性が高いことが示されてきています。
住宅を断熱化することは、省エネルギー性を向上するだけでなく、社会全体で健康な人を増やし、予病や予防介護につながる可能性をもっています。そのため「国」「地方自治体」「民間」が協働して、贅沢ではなく“生命をまもる”最低限の「部屋」を確保するための取り組みを進め、全ての国民への普及を目指していく必要があります。

※2019年3月一般社団法人 健康・省エネ住宅を推進する国民会議発表資料より転載
http://www.kokumin-kaigi.jp/images/whats202109-img00.pdf

医療の観点からみた取組みの必要性

住まい環境が、健康に影響することは種々のデータから明らかになっている。海外では、住まいの環境、こと室温に関して法律を規定する国もあり、WHOも冬季の室内温度を18度以上に保つことを勧告している。また住宅政策を社会保障政策として位置付ける国々もあると聞く。

一方我が国では、既存住宅の断熱性の悪さから冬季の室温、特に寝室の温度が低いことは周知の事実である。このことが冬季の循環器疾病(心筋梗塞、脳卒中、など)等が多く発生する原因となっている。医療・介護関係者として患者の身体の情報を得ることは非常に重要であるが、実は周囲の環境、室温の重要性は漠とは理解しているが、いざ患者を診察しはじめると、そのことを忘れてしまうこともあるのではないか。

超高齢化が進行する日本において、在宅医療の重要性は高まっており、そこに参加する職種も増加している。高齢者が住む住宅環境(室温等)を積極的に改善しようとする医療・介護関係者が増えることが望ましい。

(出典:2023年6月14日ジェルコ15期社員定時総会記念講演「WHOが勧告する健康な住宅普及に向けた医療・建築連携の重要性」の公演資料より一部抜粋・要約)

医療法人社団聡伸会
理事長 今村 聡
(元日本医師会副会長)

住宅建築の観点からみた取組みの必要性

2014年度から断熱改修をされた方々に対する改修前後の調査研究が進み、室温の健康への影響に様々な知見が得られている。その結果、国の住宅政策が着実に変わり、健康日本21第三次改定に住宅分野との連携が盛り込まれるなど大きな転換を遂げている。


全体またはゾーン断熱改修前後調査から得られた知見の一例

  • 日本の住宅の9割がWHO勧告の18度を満たしていない
  • 血圧抑制のために高齢者ほど女性ほど暖かくする必要がある
  • 断熱改修で血圧が有意に低下
  • 室温18度未満で健診結果の基準値超(コレステロールや心電図異常所見)が有意に多い
  • 高血圧・循環器疾患は生活環境病でもある

全体またはゾーン断熱改修5年後調査から得られつつある知見の一例

  • 断熱改修による最高血圧上昇抑制効果2.5mm
  • 寝室18度以上で5年後の脂質異常症発症が0.3倍
  • 暖かい住宅で5年後のつまずき・転倒が0.5倍

厚生労働科学研究費・文部科学省学研研究調査から得られた知見の一例

  • 室温が2度温かい住まいだと健康寿命が3年延びる
  • 住宅の断熱改修は、室内熱中症リスクを軽減

住宅の断熱改修は、一年を通じての気温の変化による健康への影響を抑制し、また家の中での事故防止にも効果が期待できる。

慶應義塾大学名誉教授
伊香賀 俊治
(元日本建築学会副会長)